※流血表現注意
飛び交う、ナイフとフォーク。
飛び散る、真っ赤な血。
このやり取りが、もう5分以上続いている。
2人とも既に満身創痍だが、まだ戦いが終わる気配はない。
しかし、流石に疲れてきたのか、一旦間を置いた。
「やはり、強いな……。さすが『ブラッディ・ローズ』のボスだ」
「お前もな。これだけ実力があるのなら、僕達のところに来れば良かったのに」
「生憎そのつもりはない。私は私のやり方を続けるだけだ」
「続ける? そうはさせないよ」
ゲールは再びナイフを投げた。
しかし、ミラはあっさり避けた。
「どうした? スピードが落ちてるぞ?」
「!!」
ミラの言う通りだった。
ゲールは5分もナイフを投げ続け、その上に怪我と出血。
体力を消耗するのも当然だ。
だが、同じようにフォークを投げ続けたミラは、笑顔を見せている。
まだまだ余裕のようだ。
「まあ、お前の様子を見た限り、勝敗は私の勝ちのようだな」
「そう決め付けるのはまだ早い! ……あれ?」
途端、彼の身体の力が一気に抜ける。
そして、そのまま、
その場に、倒れこんだ。
「こんな、はずじゃ……」
「だから、私の勝ちだと言ったはずだ。諦めな」
「……」
彼は黙り込んだ。
でも心の中では、ガッツポーズを思い浮かべていた。
(あいつ、僕が魔法使いということを忘れているな)
「……おい」
「何だい? 遺言があるなら早くしてくれ」
「お前、何者だ」
その問いに、ミラは笑って答える。
「今更何を。私はこの国の支配者だ。それ以外の何者でもない。昔は暗殺者だったけどな」
「なるほどな。魔法とか使えたりするのか?」
ゲールは質問を続ける。
「私は使えない。部下は使えるけどな。人を迷い込ませてるのもあいつらだ」
「じゃあ、僕は? 名前が分かるのなら、職業も分かるよね?」
「そんなの余裕だ。中学生 兼 暗殺者 兼 ……あ」
ミラは大事なことを忘れていたのに気づき、思わず口に手を当てる。
「……魔法使い、だ」
ゲールは不敵に笑った。
「ただの支配者と魔法使い、どっちが強い?」
「それは……」
立場は、一気に逆転した。
彼はふらつきながらも立ち上がり、再び笑う。
(……こんな魔法、本当は嫌いなんだけどね)
「……シーズ・オブ・ブラッド(血の海)」
彼がそう静かに唱えると、ミラの傷口から血が溢れ出した。
◆
「マリン」
彼は、物陰に隠れていた少女を呼んだ。
「終わったよ」
「ボスを倒したの? それにしても、血まみれだね」
「まあな。こうやって立ってるのもやっとだ」
彼は壁にもたれながら言う。
「……でも、ゲールさんはこれでいいんです」
「え?」
「水もそうですけど、血が滴る男でもいいじゃないですか!!」
「……褒め言葉として受け取っておくよ」
(こいつ、大丈夫なのか……?)
彼はまた、複雑な気分になる。
彼らは、好きでこの任務を引き受けた訳ではない。
(楽しんでやっている奴もいるが)
自分達がこの殺伐とした世界で生き残るために、任務を引き受け、遂行しているのだ。
それを褒めるなど、もってのほかだ。
(彼女は『血には慣れた』って言ってたけど、)
そこまで考えて、やめた。
これ以上考えていたら、余計に訳が分からなくなりそうだったからだ。
「マリン」
再び、少女の名を呼ぶ。
「はい」
「悪いけど、包帯があったら持ってきてくれないか?」
「分かりました! すぐに取りに行きます」
少女は、元気に何処かへと駆け出していった。
「……」
一人になった空間で、彼はまた考える。
(血が怖いと言いながら、生きるために人を殺す、僕)
(こうして血まみれになった僕を怖がらず、逆に褒める、彼女)
狂ってしまっているのは、どっち?
答えは、無かった。