「ここか……」
ユーミンとリッキーは、城に到着した。
ゲールも行方不明なので、その捜索も兼ねている。
「それにしても、人気がない城だな。でも、門番は殺されているから、誰かが侵入した可能性が高い」
「侵入者、か。ま、思い当たる人物は一人だけどな」
「……ゲールか?」
「あいつ以外、こんなことする奴なんかいねえよ」
そんな会話を交わしながら、2人は門を抜け、城に入った。
城は閑散としていた。
見えるのは、数々の階段と、
「こいつらも殺されたのか……」
3つの死体だった。
「見た限り、ここの使用人だな」
「ああ。それに、一発で相手を倒すのもあいつの普通のやり方だ」
「確かに。にしても、ゲールはどこに行ったんだ?」
「この広そうな城内を探すのも時間がかかるしな……ん?」
「どうした?」
「誰か来る」
その足音は、2人のほうに近づいてきた。
「……リッキー」
「何だ?」
「……この国を出るまでは、僕は戦わないからな。これ以上余計な怪我したら、サムの奴に何言われるか」
ユーミンは、苦笑いで言った。
「分かってるよ」
リッキーも笑うと、右手にそっと剣を構えた。
だが、現れたのは、青い髪と目をした少女だった。
「え……?」
2人は思わぬ人物の登場に、少し驚いた。
「あの、もしかしてゲールさんのご関係者ですか?」
少女が尋ねる。
「そ、そうだ。ということは、あいつの居場所も知ってるのか?」
ユーミンが尋ねる。
「はい。私の名前はマリン。彼はちょうど今、ここのボスを倒されたところです。しかし、怪我が酷いので、包帯を持っていこうと思っていたところです」
彼女の手には、包帯の束があった。
「なるほどね。それで、良かったら僕達も一緒に行ってもいいか?」
「はい、構いませんよ。ついてきて下さい」
そう言うと、彼女は歩き出した。
2人もその後をついていく。
「やっぱり、1人で侵入して無茶してたか……」
「しょうがないさ。あいつは昔から何でも1人でやっては、ボロボロになって帰ってきたからな」
「ここです」
2人が案内されたところには、大きな扉があった。
「この部屋に居るのか?」
「はい。何なら、先に入ってもいいですよ。でも、足元には注意してくださいね」
「何でだ?」
「水溜り……ではなく、血の海になっていますので」
「……分かった。では、先に入らせてもらいます」
「どうぞ」
(血の海、ということは、最終手段を使ったのか)
(どうした?)
(いや、何でもない)
扉を開けると、少女の言ったとおり、血の海が広がっていた。
そして、そこに居たのは、
「わざわざ取りに行ってもらって、悪かったな……って」
全身血まみれで、足元が覚束無いゲールだった。
「……相変わらず、やり方は変わってないな」
「え? それ、どういう意味?」
「簡単な任務ならまだしも、こういう相手と一人で戦ったら、傷だらけで帰ってくるってことだ。無茶はするなって言ってるのに」
「無茶なんてしてないって。僕はただ、ナイフを……」
「じゃあ、この血の海は何だ」
「……」
ゲールは、何も言い返せなかった。
(やっぱり、姉ちゃんには頭が上がらないや)
「……ったく。で、悪いけど、マリン、だっけ。包帯を寄越してくれないか?」
「はい」
マリンは、包帯の束をユーミンに投げた。
「ありがと」
ユーミンは礼を言うと、傷ついた弟の手当てを始めた。
リッキーとマリンは、その様子を見ていた。
「あの……」
「何だ?」
「あの2人って、どんな関係なのですか? ゲールさんとは会ったことがあるのですが……」
「ただの姉弟だ。双子だけどな」
「そうなんですか。でも、あまり似てませんね」
その言葉に、リッキーは苦笑いを浮かべる。
「見ためと性格はな。でも、良く似ているところもあるんだ」
「どんなところ?」
「1つはまじめなところ、もう1つは……」
「……やっぱ、言えない」
「何で?」
「言ったら、怒られそうだから」
もう1つの共通点、それは『素直になれない』こと。
素直になることは、普通の人でも難しいが、2人は姉弟だから尚更だ。
このことを2人に言ってしまうと、恐らくこんな答えが返ってくるだろう。
『素直になれたら、苦労しない(しねー)よ』
彼がそんなことを考えていると、ユーミンが手当てをし終えたようだ。
「あくまで応急処置だから、派手に動くなよ。まあ、僕も人の事言えないけどな」
「え、姉ちゃんも怪我してんの?」
「……気が付いたら森に落ちててさ、妙な鳥の襲撃にあったんだ。今はサムの術で隠してもらってる」
「そうなんだ。それより、早く行こうよ。みんな待ってる」
「そうだったな。じゃ、リッキー、マリン、行こうか」
「おう」
「はい!」
四人は、城の外に出た。
太陽が、地平線から昇ってきていた。
「……夜明けか」
ゲールが、ぽつりと呟く。
「やっと、終わったな」
ユーミンも、それに続く。
「でも、2人ともボロボロだろ? 帰ったらあいつらにまた言われるぞ」
リッキーが少し笑いながら言う。
「いいんだよ、もう流石に慣れたからさ。でも、やっぱり言われれば傷つくよ」
ゲールがそれに答える。
ここまでは良かったのだ、ここまでは。
しかし、マリンの一言で、その雰囲気は壊された。
「もしかして、その言葉って『天才バカ姉弟』ですか?」
「!!」
「……何で知ってんだよ……」
ユーミンが問う。
「え、だって、医療班の人に話を聞いたら、そう言ってましたから。『天才だけど怪我があまりにも多いバカだから』って」
「……マリン」
ゲールが言う。
「その言葉、僕達の前では二度と言わないでくれ……」
「あ、はい……」
「あれ? ゲールはさっき『慣れてる』って言ったのに、相当落ち込んでるみたいだけど」
「年下にまで言われたから、かなりショックを受けてんだよ。それより急ごう。もう出口も見つかってるはずだ」
「そうだな……っていうか、何故か地面が揺れて……」
その揺れは、彼が話している間にどんどん大きくなっていく。
「地震だ!! くそっ……こっちは怪我人もいるってのに……」
ますます大きくなっていく揺れに、4人は意識を手放した。
◆
「ん……?」
彼らの目が覚めると、そこはゲールとユーミンの家だった。
「あれ、僕達いつの間に?」
ゲールが聞く。
「恐らくあの地震だ。それで飛ばされたんだと思う」
ユーミンが答えた。
「でも、これで任務完了したんだからいいんじゃないか?」
リッキーが言う。
「じゃあ、本部に報告に行こう」
「ついでに『天才バカ姉弟』の怪我も治さないとな」
「その言葉は言うな、ローリー」
「え? でも事実じゃん」
「……」
「……」
今度は2人とも、黙り込んでしまった。
これも、いつもの光景である。
(壷の国編 完)
でも本編はまだまだ続きます。