11.夜明け


「ここか……」

ユーミンとリッキーは、城に到着した。
ゲールも行方不明なので、その捜索も兼ねている。

「それにしても、人気がない城だな。でも、門番は殺されているから、誰かが侵入した可能性が高い」
「侵入者、か。ま、思い当たる人物は一人だけどな」
「……ゲールか?」
「あいつ以外、こんなことする奴なんかいねえよ」

そんな会話を交わしながら、2人は門を抜け、城に入った。


城は閑散としていた。
見えるのは、数々の階段と、

「こいつらも殺されたのか……」

3つの死体だった。

「見た限り、ここの使用人だな」
「ああ。それに、一発で相手を倒すのもあいつの普通のやり方だ」
「確かに。にしても、ゲールはどこに行ったんだ?」
「この広そうな城内を探すのも時間がかかるしな……ん?」
「どうした?」
「誰か来る」

その足音は、2人のほうに近づいてきた。

「……リッキー」
「何だ?」
「……この国を出るまでは、僕は戦わないからな。これ以上余計な怪我したら、サムの奴に何言われるか」
ユーミンは、苦笑いで言った。
「分かってるよ」
リッキーも笑うと、右手にそっと剣を構えた。

だが、現れたのは、青い髪と目をした少女だった。

「え……?」
2人は思わぬ人物の登場に、少し驚いた。

「あの、もしかしてゲールさんのご関係者ですか?」
少女が尋ねる。

「そ、そうだ。ということは、あいつの居場所も知ってるのか?」
ユーミンが尋ねる。

「はい。私の名前はマリン。彼はちょうど今、ここのボスを倒されたところです。しかし、怪我が酷いので、包帯を持っていこうと思っていたところです」
彼女の手には、包帯の束があった。

「なるほどね。それで、良かったら僕達も一緒に行ってもいいか?」
「はい、構いませんよ。ついてきて下さい」
そう言うと、彼女は歩き出した。
2人もその後をついていく。


「やっぱり、1人で侵入して無茶してたか……」

「しょうがないさ。あいつは昔から何でも1人でやっては、ボロボロになって帰ってきたからな」

 

「ここです」

2人が案内されたところには、大きな扉があった。

「この部屋に居るのか?」
「はい。何なら、先に入ってもいいですよ。でも、足元には注意してくださいね」
「何でだ?」
「水溜り……ではなく、血の海になっていますので」
「……分かった。では、先に入らせてもらいます」
「どうぞ」

(血の海、ということは、最終手段を使ったのか)
(どうした?)
(いや、何でもない)


扉を開けると、少女の言ったとおり、血の海が広がっていた。
そして、そこに居たのは、

「わざわざ取りに行ってもらって、悪かったな……って」

全身血まみれで、足元が覚束無いゲールだった。

 

「……相変わらず、やり方は変わってないな」
「え? それ、どういう意味?」
「簡単な任務ならまだしも、こういう相手と一人で戦ったら、傷だらけで帰ってくるってことだ。無茶はするなって言ってるのに」
「無茶なんてしてないって。僕はただ、ナイフを……」
「じゃあ、この血の海は何だ」

「……」

ゲールは、何も言い返せなかった。

(やっぱり、姉ちゃんには頭が上がらないや)

「……ったく。で、悪いけど、マリン、だっけ。包帯を寄越してくれないか?」
「はい」
マリンは、包帯の束をユーミンに投げた。
「ありがと」
ユーミンは礼を言うと、傷ついた弟の手当てを始めた。

 

リッキーとマリンは、その様子を見ていた。
「あの……」
「何だ?」
「あの2人って、どんな関係なのですか? ゲールさんとは会ったことがあるのですが……」
「ただの姉弟だ。双子だけどな」
「そうなんですか。でも、あまり似てませんね」
その言葉に、リッキーは苦笑いを浮かべる。
「見ためと性格はな。でも、良く似ているところもあるんだ」
「どんなところ?」
「1つはまじめなところ、もう1つは……」

「……やっぱ、言えない」
「何で?」
「言ったら、怒られそうだから」

もう1つの共通点、それは『素直になれない』こと。
素直になることは、普通の人でも難しいが、2人は姉弟だから尚更だ。
このことを2人に言ってしまうと、恐らくこんな答えが返ってくるだろう。

『素直になれたら、苦労しない(しねー)よ』


彼がそんなことを考えていると、ユーミンが手当てをし終えたようだ。

「あくまで応急処置だから、派手に動くなよ。まあ、僕も人の事言えないけどな」
「え、姉ちゃんも怪我してんの?」
「……気が付いたら森に落ちててさ、妙な鳥の襲撃にあったんだ。今はサムの術で隠してもらってる」
「そうなんだ。それより、早く行こうよ。みんな待ってる」

「そうだったな。じゃ、リッキー、マリン、行こうか」

「おう」
「はい!」

 

四人は、城の外に出た。
太陽が、地平線から昇ってきていた。

「……夜明けか」
ゲールが、ぽつりと呟く。

「やっと、終わったな」
ユーミンも、それに続く。

「でも、2人ともボロボロだろ? 帰ったらあいつらにまた言われるぞ」
リッキーが少し笑いながら言う。

「いいんだよ、もう流石に慣れたからさ。でも、やっぱり言われれば傷つくよ」
ゲールがそれに答える。


ここまでは良かったのだ、ここまでは。

しかし、マリンの一言で、その雰囲気は壊された。


「もしかして、その言葉って『天才バカ姉弟』ですか?」


「!!」

「……何で知ってんだよ……」
ユーミンが問う。

「え、だって、医療班の人に話を聞いたら、そう言ってましたから。『天才だけど怪我があまりにも多いバカだから』って」

「……マリン」
ゲールが言う。

「その言葉、僕達の前では二度と言わないでくれ……」

「あ、はい……」


「あれ? ゲールはさっき『慣れてる』って言ったのに、相当落ち込んでるみたいだけど」
「年下にまで言われたから、かなりショックを受けてんだよ。それより急ごう。もう出口も見つかってるはずだ」
「そうだな……っていうか、何故か地面が揺れて……」

その揺れは、彼が話している間にどんどん大きくなっていく。

「地震だ!! くそっ……こっちは怪我人もいるってのに……」

ますます大きくなっていく揺れに、4人は意識を手放した。


                         ◆


「ん……?」
彼らの目が覚めると、そこはゲールとユーミンの家だった。
「あれ、僕達いつの間に?」
ゲールが聞く。
「恐らくあの地震だ。それで飛ばされたんだと思う」
ユーミンが答えた。
「でも、これで任務完了したんだからいいんじゃないか?」
リッキーが言う。

「じゃあ、本部に報告に行こう」
「ついでに『天才バカ姉弟』の怪我も治さないとな」

「その言葉は言うな、ローリー」
「え? でも事実じゃん」


「……」
「……」

今度は2人とも、黙り込んでしまった。


これも、いつもの光景である。

 

(壷の国編 完)
でも本編はまだまだ続きます。