「おはよー」
「おはよう。この前はどうしたんだ?」
「色々事情があったんだよ」
「そうだったんだ。それより優子、制服のボタンは留めとけよ」
「はいはい」
任務から3日後。
週末を挟んで休息をとり、元気と優子の姉弟は学校に来ていた。
その身体に、怪我の痕は見当たらない。
ミルトリーファミリーの本部にある、医療班に魔法で治療してもらったのだ。
2人は校門で友達と挨拶を交わし、生徒玄関へ向かい、上靴に履き替える。
「そういえば、僕達のクラスってどこだっけ?」
「分からない。さっき聞いておけば良かったな」
誰かそれを聞ける人が居ないかと探していると、後ろから声が掛かった。
「おーい! 元気、優子、おはよう!!」
「何だよ、朝から騒がしいなあ……って、君達かよ」
2人が振り向くと、そこには真樹、渉、阜の3人が居た。
声から判断して、さっきの挨拶は渉のものだろう。
「おはよう」
「おはよう。怪我はどうだ?」
真樹が聞く。
「大丈夫、相変わらず優秀な医療班だよ」
「そら良かったな。そうそう、お前ら、今年のクラス聞いたか?」
今度は渉が楽しそうに言う。
「いや、まだだ。これから聞こうと思っていたところだ」
優子が言う。
「なら、ちょうど良かった。実はな、俺達5人とも同じクラスなんだってさ」
「えっ、そうなの!?」
「それにしては、偶然過ぎじゃないか?」
知らなかった2人は驚く。
「それだけじゃない。俺達のクラス、転校生も居るんだ」
真樹が言う。
「そうなんだ。何かいいことずくめだな」
「……でも、そうとは限らないんだ、これが」
「……え?」
今まで黙っていた阜が、暗い声で言った。
4人の視線が、彼に集まる。
「君達、2人とも出席番号最初だよ? それに、あと3分で職員室に入れなくなるんだけど」
「「……?」」
真樹と渉は、理解できない、と言う顔をしている。
「……あっ、そういうことか!」
一番先に気づいたのは、優子だった。
「え?」
「僕達、日直だ! 職員室に日誌を取りに行かないと!」
「そっか! じゃあ、職員室まで競争しよう!」
「……構わないよ」
「よし、行くぞ!」
「「Ready go!!」」
そう言うと、2人は駆け出していった。
「……元気だな、2人とも」
「さあ、俺達も教室に上がるか」
「そうだな……あ」
渉が何かに気づいたようだ。
「どうした?」
「あいつら、俺達が2年2組だってこと、知っているのかな」
「「あ……」」
「絶対、分かってないな」
「でも、もう行ってしまったからいいんじゃないか」
「……酷いな、お前ら」
◆
その様子を、近くで見ている人がいた。
「あの5人、もしかして……」
彼女は記憶を探った。
(右目の下の傷、ポニーテール、縁なし眼鏡、天然パーマ、無口な子……)
(間違いない。『ブラッディ・ローズ』の5人だ)
◆
「はあ……。新学期初日なのに、ツイてないなあ……」
元気は、ため息をついた。
「ため息つくなよ。ほら、家着いたよ」
優子が、家の鍵を開けた。
「……ありがと」
2人は、家に入った。
彼らは鞄を自分の部屋に置くと、リビングのソファーに座った。
「今日は半日だったけど、大変だったな」
「朝からあれじゃあ、疲れるよ。それに……」
しかし、元気はなかなか答えない。
「……それに?」
痺れを切らした優子が聞く。
「……いや、やっぱいい」
そう言った元気の顔は、少し赤くなっていた。
(転校生が可愛くて、つい目で追ってしまった、って、言えない)
「……ならいいけど」
(わざわざ言わなくても、表情でだいたい何考えてるか分かるっての)
2人の間に、沈黙が流れる。
それを破ったのは、電話の呼び出し音だった。
「ちょっと出てくる」
「ああ」
受話器を取ったのは、優子だった。
「もしもし、井上です。……はい。……えっ、そうなんですか?……はい、分かりました。連絡が取れ次第、そちらに行きます。……さようなら」
「どうしたんだ?」
元気のその問いに、彼女は声のトーンを落として答える。
「ボスからの連絡だ。暗殺依頼が入った。しかも、依頼人は僕達を指名した。詳細を話したいので、今すぐ5人を集めて本部に来てほしいとのことだ」
「分かった。連絡は僕がする。姉ちゃんは準備をしてくれ」
「了解」
2人は、動き出した。