12.新学期

「おはよー」
「おはよう。この前はどうしたんだ?」
「色々事情があったんだよ」
「そうだったんだ。それより優子、制服のボタンは留めとけよ」
「はいはい」

任務から3日後。
週末を挟んで休息をとり、元気と優子の姉弟は学校に来ていた。
その身体に、怪我の痕は見当たらない。
ミルトリーファミリーの本部にある、医療班に魔法で治療してもらったのだ。
2人は校門で友達と挨拶を交わし、生徒玄関へ向かい、上靴に履き替える。

「そういえば、僕達のクラスってどこだっけ?」
「分からない。さっき聞いておけば良かったな」

誰かそれを聞ける人が居ないかと探していると、後ろから声が掛かった。

「おーい! 元気、優子、おはよう!!」
「何だよ、朝から騒がしいなあ……って、君達かよ」

2人が振り向くと、そこには真樹、渉、阜の3人が居た。
声から判断して、さっきの挨拶は渉のものだろう。

「おはよう」
「おはよう。怪我はどうだ?」
真樹が聞く。
「大丈夫、相変わらず優秀な医療班だよ」
「そら良かったな。そうそう、お前ら、今年のクラス聞いたか?」
今度は渉が楽しそうに言う。
「いや、まだだ。これから聞こうと思っていたところだ」
優子が言う。

「なら、ちょうど良かった。実はな、俺達5人とも同じクラスなんだってさ」

「えっ、そうなの!?」
「それにしては、偶然過ぎじゃないか?」
知らなかった2人は驚く。

「それだけじゃない。俺達のクラス、転校生も居るんだ」
真樹が言う。

「そうなんだ。何かいいことずくめだな」
「……でも、そうとは限らないんだ、これが」
「……え?」

今まで黙っていた阜が、暗い声で言った。
4人の視線が、彼に集まる。

「君達、2人とも出席番号最初だよ? それに、あと3分で職員室に入れなくなるんだけど」

「「……?」」
真樹と渉は、理解できない、と言う顔をしている。

「……あっ、そういうことか!」
一番先に気づいたのは、優子だった。
「え?」
「僕達、日直だ! 職員室に日誌を取りに行かないと!」
「そっか! じゃあ、職員室まで競争しよう!」
「……構わないよ」
「よし、行くぞ!」

「「Ready go!!」」

そう言うと、2人は駆け出していった。


「……元気だな、2人とも」
「さあ、俺達も教室に上がるか」
「そうだな……あ」
渉が何かに気づいたようだ。
「どうした?」

「あいつら、俺達が2年2組だってこと、知っているのかな」

「「あ……」」

「絶対、分かってないな」
「でも、もう行ってしまったからいいんじゃないか」

「……酷いな、お前ら」


                    ◆


その様子を、近くで見ている人がいた。
「あの5人、もしかして……」

彼女は記憶を探った。
(右目の下の傷、ポニーテール、縁なし眼鏡、天然パーマ、無口な子……)

(間違いない。『ブラッディ・ローズ』の5人だ)


                   ◆


「はあ……。新学期初日なのに、ツイてないなあ……」
元気は、ため息をついた。


「ため息つくなよ。ほら、家着いたよ」
優子が、家の鍵を開けた。
「……ありがと」
2人は、家に入った。


彼らは鞄を自分の部屋に置くと、リビングのソファーに座った。
「今日は半日だったけど、大変だったな」
「朝からあれじゃあ、疲れるよ。それに……」

しかし、元気はなかなか答えない。


「……それに?」

痺れを切らした優子が聞く。


「……いや、やっぱいい」

そう言った元気の顔は、少し赤くなっていた。


(転校生が可愛くて、つい目で追ってしまった、って、言えない)


「……ならいいけど」

(わざわざ言わなくても、表情でだいたい何考えてるか分かるっての)

 

2人の間に、沈黙が流れる。


それを破ったのは、電話の呼び出し音だった。

「ちょっと出てくる」
「ああ」

受話器を取ったのは、優子だった。

「もしもし、井上です。……はい。……えっ、そうなんですか?……はい、分かりました。連絡が取れ次第、そちらに行きます。……さようなら」

「どうしたんだ?」

元気のその問いに、彼女は声のトーンを落として答える。

「ボスからの連絡だ。暗殺依頼が入った。しかも、依頼人は僕達を指名した。詳細を話したいので、今すぐ5人を集めて本部に来てほしいとのことだ」

「分かった。連絡は僕がする。姉ちゃんは準備をしてくれ」

「了解」


2人は、動き出した。