「ふぅ……」
散らばった資料をまとめ、和真は一息ついて生徒会室に入っていき、それを各委員会の机に配っていた。
それが終わった頃に、チョークを取りに行っていた渚が戻ってきた。
もうこれ以上嫌なことが起きないように祈っていると、和真が僕に話しかけてきた。
「そういえば健、『裏役員』は決まったのか?」
「決まってるけど……。 何かあったのか?」
「うん。生徒会担当の松本先生からの伝言なんだけど、『裏役員が決まっていたら、会議の最後に言ってくれ』だってさ」
「分かった」
あ、聞き慣れない言葉があったね。
そう、『裏役員』。
裏役員--通称、『裏』又は『第7の役員』--というのは、僕達を学校内の表の生徒会役員とすると、学校外の裏の生徒会役員にあたるものなんだ。
表の生徒会役員では出来ない、学校外の物事の処理が裏役員の仕事。
一番多いのは、他校生とのトラブルの処理かな。
ここ桜ヶ丘学園の周りには学校が多いから、その対策としてこのポストがあるんだ。
名目上は表の生徒会役員と同じ扱いだから、『第7の役員』とも呼ばれているんだ。
先輩の話によると、
「表の生徒会が学校の顔と言われるように、裏役員は学校のもう1つの顔と呼ばれる。
だから毎年、裏役員を選ぶことは、その年の学校の運勢を占うことに等しい。
よってその人事には、特に気をつかわなければならない。」
……だそうだ。
ちょっと難しいかな。
でも今年は、このポストの適任者があっさり見つかったんだ。
ちょっと不思議な人なんだけどね。
……おっと、話が長くなってしまったね。
本題の今日の会議に戻らないと。
気が付くと、もう会議が始まる5分前。
各委員会の委員長も、だんだん集まってきた。
生徒会役員も、僕以外は席について、会議が始まるのを待っていた。
僕はまだ来ていない人を確認した。
図書委員会と美化委員会の委員長、生徒会担当の松本先生、そして男子書記の蓮。
裏役員の人は……今日は来ても来なくてもいいと思うからカウントしないでおこう。
開始2分前。
2回のノックの後に、長身の松本先生が入ってきた。
「すいません、遅れてしまって。まだ始まってないよね?」
「はい。でももうすぐ始まるところです」
僕は答えた。
「了解。で、まだ来ていない人はいるか?」
「図書と美化、それに書記の蓮君です」
「蓮が補習だということは聞いている。図書と美化の2人は、まだそれぞれの委員会で会議中かな?」
「たぶんそうだと思います。呼んできましょうか」
「ああ、頼む。でも東君が抜けたら会議が進まないから……」
「じゃあ、私が行きます」
そう言って手を挙げたのは、葵だった。
「加納は……抜けても問題ないな。教室、分かるな?」
「はい」
そう言うと、彼女は生徒会室を出ていった。
それと入れ替わるように、一人の生徒が入ってきた。
「えっと、まだ、始まってない、よな?」
そこにいたのは、補習で遅れてくると言っていた蓮だった。
「あれ、蓮、補習は?」
僕は聞いた。
「補習? それなら担当の先生に『生徒会があるならそっちが優先だ』って言われたから」
「なるほどね」
蓮は一番奥の席に着いた。
時計を見ると、開始時刻を少し過ぎていた。
「では、東君、全員そろっていませんが、始めてください」
松本先生が指示を出した。
「はい」
「これから、○△年第1回生徒会会議を始めます。起立!」
さあ、ここが僕達のスタートラインだ。
◆
「では初めに、今回の会議の担当は、記録、小倉蓮」
僕が名前を言うと、彼は軽く礼をした。
「黒板、川上渚」
彼女は立ってから礼をして、黒板に向かった。
「そして司会・進行、東健です。よろしくお願いします」
僕は座って礼をした。
周りの出席者も礼をした。
「それでは、会議に移ります。資料の目次を見てください」
資料のページをめくる音が、生徒会室に響く。
「今日の議題は、今年度の残り3ヶ月の行事の確認、来年度の収入・支出、今月の目標について、の3つです。
ではまず、行事の確認です。尾崎さん、お願いします」
「はい」
隣に座っている和真が言う。
「資料の2ページを見てください。今年度もあとわずかですが、3年生を送る会や卒業式などの行事があります。頑張っていきましょう」
彼はそう言うと、僕に視線を向けてきた。
バトンパスの合図だ。
「……はい、では次に、来年度の収入・支出予定についてです。会計の近藤さん、お願いします」
「はい」
今度は実が返事をした。
「資料の3ページを開いてください。来年度の収入・支出予定は、その資料の通りです。
生徒会費は、来年度も今年度と同じ生徒数であると仮定して計算しています。
これで良いという人は、賛成の拍手をしてください」
パチパチパチと、賛同の拍手が鳴る。
どうやら満場一致のようだ。
「……全員が拍手したようなので、この予定は生徒総会に送ります」
会議は、ここまでは順調だ。
と思ったその時、図書と美化委員会の委員長を迎えに行っていた葵が戻ってきた。
でも彼女の後ろにいたのは、1人だけだった。
「先生、図書委員会の委員長を連れてきました」
「遅れてしまってすみません。みんなの意見がなかなかまとまらなくて……」
委員長は謝罪した。
「まあ、そんなこともあるさ。初めてだから、これから慣れればいい」
「はい」
彼は返事すると、「図書委員会」と書かれた席に座った。
でも彼を連れてきた葵は、座ろうとしない。
まだ言うべきことがあるらしい。
まあ、何を言うかは僕にも検討がついたけど。
先に話したのは、松本先生だった。
「あれ、加納、美化委員会の委員長はどうした?」
「それが、」
「サボって帰ったらしいんです」
……おい、今、『サボった』ていった?
「でも大丈夫です」
大丈夫? 何か手を打ったのだろうか。
「彼を知っているという人に、探させてますので」
「そうか」
僕は返事をした。
すると、生徒会室のドアが、3回ノックされた。
そしてドアが開く。
「えーっと、生徒会室ってここで合ってるよな?」
そこに立っていたのは、男子の制服を着ているけど、男とも女とも言い難い中性的な顔立ちをした人がいた。
その人の肩には、一人の男が抱えられていた。