今日はお菓子作りの日。
午後5時、予定通り、5人はゲールの家に来ていた。
「ところで、今年は何を作るんだ?」
リッキーが聞く。
「ああ、それなんだけどな」
ユーミンが答え、台所からいくつかの袋に小分けされた何かを持ってきた。
「それは……クッキー?」
「そうだ。実はもう作っておいたんだ」
「「ええーっ!!」」
事情を知らないリッキー、ローリー、サムは思わず驚きの声を上げた。
「な、何で?」
ローリーが聞いた。
「……去年も一昨年もその前も、料理音痴の誰かさんと誰かさんのせいで一回失敗して、全部僕と弟でやり直してただろ?
もうそんな思いは御免だから、2人で作っておいた」
「……」
心当たりのある2人が顔を見合わせ、苦笑する。
リッキーとローリーだ。
「……で、今年は2人がいないからうまくいった、ってことか?」
サムが問う。
「そういうことだ。君達の試食用に一人一枚ずつ取っておいたんだが、食べるか?」
「もちろん!」
3人は頷いた。
そう話している間に、ゲールが試食用のクッキーを持ってきた。
「一人一枚だから、それ以上食べないでね」
「分かってるって」
3人は一枚ずつクッキーを取り、一口かじる。
「おいしい!!」
感嘆の声を上げ、あっという間に全部食べ終えた。
「ところで、これからどうするんだ? もうイタリアに向かうのか?」
リッキーがゲールに聞く。
「うん。時差ボケは早めに治しておいたほうがいいからね。後、明日は部屋の飾り付けもあるから、それも手伝いたいし」
「なるほど。でも、何で飾り付けを手伝うんだ? 今までしてこなかったのに」
ユーミンが聞く。
身内の彼女も理由を知らないようだ。
「……ちょっと色々あってね……(将来のために、今から評価を上げておかないとね。恐らく、中学を卒業しても他に行くところないだろうし)」
「まあ、言えないのならしょうがないよ。それに、もうやることがないのなら、さっさと行こうじゃないか」
ローリーが皆を促す。
「だな。……では、全員『扉』の前に行ってスーツに着替えて」
「はい」
各自が、ゲールの言う通りにする。
ユーミンはクッキーの入った箱を持っている。
「じゃ、行こうか」
「Si!!」
◆
とん、という音と共に、5人はミルトリーファミリーの本部に降り立った。
「よし、全員着いたね。今の時刻は?」
「この時計が午後5時だから、ここは午前9時。起きるのが遅い人が朝食を摂っている時間だ」
ユーミンが、自分の腕時計をイタリアの時刻に直しながら言う。
「まだ午前中か。こんな時間から少し騒がしいのは、やっぱりハロウィンのせいか?」
リッキーが聞く。
「だと思うよ。取りあえず、マリノに挨拶をしに行こう。姉ちゃんはクッキーを隠してきてくれる?」
「分かった。終わったら出来るだけ早く合流する」
ユーミンはその場を足早に去った。
「俺達はボスの部屋だよね」
ローリーが言う。
「うん。行こう」
◆
コンコン、というノック音に続いて、ゲール達4人はボスの部屋に入った。
「おはようございまーす」
「お、君達か。おはよう」
ミルトリーファミリーのボス・マリノは、机の上に並べられていた書類に目を通し、サインしているところだった。
「あ、すみません、邪魔だったら出直してきますから」
ゲールが申し訳なさそうに言う。
「いやいや、そんなことないよ。それより、お菓子はもう作ったのか? 今まで失敗ばかりだったが」
「それなら大丈夫です。僕達姉弟の2人で作りましたから」
「……そうか、ならいい。……そうだ、サム、君に頼みたいことがあるんだが」
「俺、ですか?」
サムが困った顔で問い返す。
「うん。毎年、パーティーでいろんな曲を何曲か演奏しているよね」
「はい」
「それでな、今年、ピアノを弾いてもらおうと思っていた人に『断る』って強く言われてね」
「だから、俺にそいつの代わりにピアノを弾いてくれ、ってことか?」
「そうです。他に頼めそうな人もいませんし」
マリノも困った顔になる。
「えっ、お前、ピアノ弾けるのか!?」
リッキーが驚いて言う。
「一応な。って、お前知らなかったのかよ!」
「ごめん」
「謝らなくってもいいって」
サムはため息を一つついた。
そして、真剣な顔になる。
「……ピアノ演奏は引き受けます。でも聞きたいことが2つ」
「何だい」
「1つ。ハロウィンまでは、今日を入れてあと2日です。十分な練習時間は確保出来ませんし、それ故簡単なものしか出来ませんが」
「それに関しては大丈夫です。楽譜もこんな感じですので」
マリノは、楽譜を机の引き出しから取り出し、サムに渡した。
サムは、それに一通り目を通した。
「これなら、ちょっと練習したら出来るレベルだな」
「でしょう? ……それで、2つ目の聞きたいことは?」
「……『今年、ピアノを弾いてもらおうと思っていた人』は誰ですか?」
「あなたの良く知る人物ですよ」
マリノがそう言い終わったのと同時に、部屋のドアが開いた。
「悪いな、ちょっと時間がかかって……」
「ユーミン、俺にハロウィンのピアノ演奏を回したのはお前か?」
彼女が言い終える前に、彼はやや怒りを込めた声で言った。
「……バレたか」
「やっぱり君か。何で断ったんだ?」
「はっ、この前も言っただろう? スカートの腹いせだよ。……サム、君には申し訳ないと思っているが、少し協力してもらえないか?」
ユーミンは、口元に黒い笑みを浮かべて言う。
「それならしょうがないなあ。協力するよ」
サムは納得したように言う。
「俺達も、必要だったら力を貸すよ。なあ」
ローリーがそう言い、ゲール、リッキーがうなずく。
「……君達、さっきから『協力』とか『力を貸す』とか言っているが、何のことだ?」
マリノが不審そうな声で聞く。
「それは当日のお楽しみですよ、マリノ様。ほら、行くぞ」
「「Si!!」」
5人は楽しそうに返事をし、部屋を出て行った。
「おい、待て!」と制止するマリノの声も、彼らには全く聞こえなかった。
◆
自分だけになった部屋で一人、マリノは呟いた。
「……私も、何か考えておいたほうがいいみたいですね」
◆
部屋を出た彼らは、3つある会議室のうちの一つに集まっていた。
誰も入ってこないように、ドアには鍵をかけてある。
「……計画はすでに練ってある。後はこれを君達に伝えて、実行するだけだ。いいな?」
ユーミンが問いかける。
「「はい!!」」