15

ゲールは5分ほどで部屋に戻ってきた。
それから、暗殺の作戦会議を行った。
日時は次の土曜日、夜の11時。
リッキーがゴーストを襲い、ローリーとサムが周囲の見張り、ゲールが万が一の時のための切り札。
そしてユーミンは、梨花と彼女の弟が家に泊まるので、家で待機、ということになった。
何故こうなったというと、壷の国に行った時、リッキーの出番がほとんど無かったからだ。
「俺がやってもいいよね?」と、黒い表情で言うものだから、誰も反論できなかったらしい。

「……そ、それじゃ、リッキー、任せた」
「了解」


                           ◆


「さてと、日本に戻るか。彼女達を受け入れる準備をしないと」
ゲールは既に『魔法の扉』の前に立っていた。
「手伝おうか? どうせ暇だし」
リッキーの言葉に、ローリーとサムが頷く。
「いや、いいよ。これぐらい一人で出来るから。……ん?」
誰かの携帯の着信音が鳴った。
何かのアニメの主題歌のようだ。
「あ、僕だ」
電話に出たのはユーミンだった。
「もしもし?……今? 本部……えっ、本当か?……分かった。すぐ行く」
彼女は電話を切り、彼らとは逆方向に駆け出した。
「悪い、急用が入った。先に帰ってくれ」
そう言うと、彼女は彼らの視界から姿を消した。
「何かあったのかな? ゲール、心当たりある?」
「多分、あれだ。『属性魔法』の研究会、とか言うやつ。僕は詳しくは知らないけど」
「そういえば、壷の国の時話してたな」
「そうだっけ? サム、よく覚えてるなあ」
「……ついこの間のことだよ、ローリー……」
「ま、まあ、その話は後ですることにして、早く行こう」
呆れるリッキーとサム、頭に疑問符が浮かんでいるローリーを横目に、ゲールが言った。
「はーい」
彼らは魔法の扉を開いた。


                          ◆


ミルトリーファミリー本部の三階にある『属性魔法研究会』と看板が掲げられた部屋に、ユーミンは入った。
「久しぶりだな」
「おう、久しぶり。3ヶ月ぶりかな」
彼女を出迎えたのは、ここの会長のイールだった。
「……他の奴は?」
部屋にはユーミンとイールの2人だけだ。
普段なら他に3、4人はいるはずだが。
「もう寝ましたよ。明日、早い時間に行くところがあるんで」
「行くところ?」
「はい。大昔の魔法に関する書物が見つかったんで、それを見に行くんです」
「成程。で、僕を呼び出したのは何でだ?」
ユーミンは話題を切り替えた。
「あ、そうだったな。……実は、簡単にその人がどんな属性なのかが分かる呪文を発見したのです」
今までは、実際に魔法を使ってみないと、どんな属性なのかは分からなかった。
だが、そもそも属性魔法のことを知らない人がほとんどだったので、その方法では意味がなかった。
「でも、一つ問題があるのです」
「何だ?」
「読めないのです」
「……は?」
「これを見てください」
イールは、一冊の本を手に取り、問題のページを開いた。
「どれどれ」
ユーミンはそのページを読み始めた。

  ”その属性が、すぐに分かる呪文がある。それがこれだ。”

そこには、常人では読み取れない文字があった。
文字の下には、文の続きがあった。

  ”私には分からなかったが、私の友人はすぐに読めた。
   彼によると、ある特定の条件を持つ人でないと読めない、特殊な文字らしい。
   彼はその呪文を唱えた。
   すると、彼の右手に水色の球体が現れた。
   『水属性』の色だった。”

そして文の最後には、こう書かれていた。

  ”この呪文を唱えると、誰でも自分の属性が瞬時に分かる。
   だが残念ながら、呪文の読み方をすっかり忘れてしまった。
   何しろ何十年も前の出来事だ、仕方が無い。”

「……」
「……と、いうことなんです。これが分かれば、すごく便利なのですが……読めますかね?」
「ああ、読めるさ。唱えてみるか?」
「是非」

「                  !」

それは、やはり常人では意味のない言葉の羅列に聞こえた。

そして彼女の右手に、赤い球体が現れた。

「これは……」
「『炎属性』の色だ。これは間違いなく属性魔法が分かる呪文だ」
「でも、私達には読めません。どうしたら……」
「そうだな、紙と書くものはないか?」
「……はい」
イールは紙とボールペンを差し出した。
ユーミンは右手の球体を握り潰して消し、それらを受け取った。
「……ちょっと待ってな」
彼女は、あーでもない、こーでもない、といいながら、紙に文字を書いていった。

5分後。
「……出来た」
ユーミンは文字を書いた紙を、イールに渡した。
「これは……」
「さっきの呪文の発音に近くなるように、イタリア語の単語を並べてみた」
「やってみていいか?」
「もちろん」

彼は紙に書かれた文字を読み上げた。
すると今度は彼の右手に、白い球体が現れた。

「……出来た……」
「だろ? 白、ということは光か」
「そうですか……ふあー……」
イールが大きくあくびをした。
「もう寝たらどうだ? 明日早いんだろう?」
「ああ、そうする。でも、どうしても聞いておきたいことがある」
「何だ?」

「さっきの本に書いてあった特殊な文字を読むための『特定の条件』とは何だ?」

「……」
ユーミンは困った表情をした。

「答えられなかったら、別に答えなくてもいい」
「いや、ヒント程度なら答えられなくもないが……」
「……いいのか?」
「構わないさ。そうだな……」

「『半分ずつ』、かな」

「半分、ずつ……?」

「そうだ。これ以上は言えない。じゃあな、Buona notte.」

「Buona notte.」

眠りの挨拶を交わすと、ユーミンは部屋から出ていった。

 

※Buona notte.=おやすみなさい。