22

四人は家の玄関を蹴破った。
今は任務だ。
丁寧に戸を開ける、何てことはしない。
ところが、
「あれ、誰もいないぞ?」
リッキーが言う。
「油断するな。どこかに隠れているかもしれない」
ゲールが忠告した、その時。
「!! 伏せろ!」

次の瞬間、家に銃声が響いた。

そして前方から、数人の男が出てきた。
「さすが一流の暗殺集団。気付くのが早いねえ」
「……お前等、何者だ」
「そりゃあ、決まっているでしょう。ルビーファミリーから来た、ゴーストの護衛です」
男達の一人が言う。
「そうか。だが悪いけど、」

「君達の存在は予測済みだ」

ゲールが言うと、ローリーとサムが彼らに攻撃を仕掛けた。
その隙に、リッキーがゴーストを探すために他の部屋に向かう。
「「!!」」
男達は急な攻撃に対応出来ない。
「……雑魚と争うのは時間の無駄だ」
サムの幻覚とローリーの数発の銃弾で、あっという間に男達は床に倒れた。
「じゃあ、ローリー、サム、念のため玄関の警備を頼む。僕は他に敵がいないか探してくる」
「「了解」」
彼らは二手に分かれた。


                           ◆


家では、ユーミンが書斎で調べ物をしていた。
彼らの家の書斎には、世界中の魔法に関する書物が収められていた。
そのうちの一冊を彼女は手に取り、目的のページを探していた。

(どうも気になるんだよなあ……)

彼女が気にしていたのは、ロタールとベルフの魔力についてだった。
普通、ミックスは、その独特の魔力から生じるオーラがある。
そのオーラは、「ある条件」を満たしている者だけが感じ取ることが出来る。
ユーミンはその一人で、過去に二人がミックスであることを最初に出会った時に見抜いている。

だが、今の二人からは全くオーラが感じられなかった。
彼女は今、その原因を調べていた。

(オーラがなくなる、それは即ち魔力を封じ込めているか、魔力そのものがなくなるかのどちらかだ。でも魔力そのものがなくなる可能性はゼロに等しい。となると、二人の魔力は封じ込めている、封じ込められている可能性が高い。でもその方法は? 目的は……?)

本の目次を見ていると、その中の一つの項目に目が止まった。

(『魔力の封印』……これか)

彼女はその項目のページを開く。
そのページには、このように書いてあった。

『魔力の封印
 魔力は生きている間はなくなることはない。だが封印することは可能だ。
 その方法は三つある。
   一つは魔力を封印する装飾品を身に着けて、着けている間だけ一時的に封印する。魔法使いであることを隠す必要がある時などに使う方法で、一般的な方法である』

(でも二人は目立った装飾品を着けていなかった。なら他の二つは……)

『二つ目は、対象者に封印の魔法をかける方法である。但し自分で自分にかけることは出来ないので、他の人に協力してもらう必要がある。
 この封印は、自分でいつでも解除することが出来る。
装飾品を無くす心配はないが、他人の協力が必要なため、あまり用いられていない』

(なるほど、魔法で封印することも可能なのか。となるとこの可能性が高いな。一応、もう一つの方法も見ておくか)

『三つ目の方法は、呪いである』

(!!)

彼女の表情が険しくなる。

『呪いによる封印は、相手がそばにいなくても可能である。恨みがある者が、報復として行うことがある。
 だが普通の魔法による封印と違い、呪った本人しか解除できない。
 呪われた人は半永久的に魔力を封印され、右肩に呪いの印が浮き上がる』

(呪い、か……。その可能性も視野に入れておくか)


                        ◆


リッキーは、標的(ターゲット)であるゴーストを探していた。
でも、その姿はすぐに見つかった。

「ZZZ……」

彼は寝ていた。
レベルの高い護衛に安心しきっているのだろう。

(完全に油断しているな)

リッキーは愛用の剣を構え、ゴーストに近づく。
が、

(……あれ?)

ある一定の距離から先に進めなくなった。
他の場所から近づいてみるが、やはり一定の場所から先に進めない。
どうやら壁があるようだ。

(結界か?)

となると彼の専門外だ。
ここは術士のサムを呼ばなくてはならない。

(しょうがないな……)

彼は剣をしまい、玄関にいるであろうサムを呼びに戻ろうとした、その時。

「……っ!!」

身体に鋭い痛みが走る。

恐る恐る視線を自分の身体に向けると、


心臓の近くに、銀色の刃が刺さっていた。


後ろを振り向いてみると、さっきまで結界(?)の中で寝ていたゴーストが、凍りつくような微笑を浮かべていた。

「引っかかったね、孤高のシュウェットケムファー(Schwertkämpfer)」
「……懐かしいな、その呼び方。まあ、いいけど」
「!?」

リッキーは刺されたのにも関わらず、冷静だった。
彼は自分の身体に刺さった剣を、そっと引き抜いた。
そして、刺さった傷口が塞がっていく。

「惜しかったね、ゴースト。後2cm左だったらうまく俺を殺せたのに」

「ど、どういうことだ!」

ゴーストが驚きのあまり大声を上げる。
リッキーは振り返って言う。

「俺ね、特殊体質なんですよ。剣による攻撃が一切効かないんです。えっと……、カリディア・ミルトリー家って知ってます?」
「いや、知らない」
「ミルトリー家の家系の一つです。分家ではありません。詳しい説明は省きますけど、俺はそこの出身なんです。剣術による魔法を得意としていて、一族全員がこの特殊体質を持っているんです」
「と、いうことは……」

「剣術においては無敵なんです。……たまには本気を出しますか」

そう言うと彼は眼鏡をはずした。
それと同時に、目の色が紫から銀に変わる。

「さあ、どうします? 剣はもう使えませんよ?」

ゴーストはまずい、という表情をしたが、それはすぐに笑みへと変わる。

「……フッフッフッ」

「?」

「剣は効かないけど、魔法は効くんだよな?」

「っ!?」
(しまった……!)

次の瞬間、ゴーストの手から水が発生し、リッキーに向かってきた。
でもやはり、ここでも彼は落ち着いていた。

(相手が何を仕掛けてきても、やることは一緒だ)

リッキーはゴーストの剣を、彼の前で素早く十字に動かした。


「弔いの十字架!!」

「!!」


水は瞬く間に消えた。
そして技をかけられたゴーストは、

「な、ん、だと……!」

全身から血が噴出して、その場に倒れた。

でもその血は、しばらくして止まった。
リッキーが一時的に止める魔法をかけたらしい。

「殺さ、な、い、のか……? 私は、君に負けた、の、だよ……?」
「もちろん殺すさ。魔法を解除すると直に君は死ぬ。だけどその前に、遺言がないかどうか確かめたくてね。娘や息子に言い残すことはないか?」
「……君は、優しいな」

その言葉を、リッキーは首を振って否定する。

「優しい、じゃなくて甘いんです。これは俺のエゴです」
「……そうか、なら甘えようか。少し、長くなるがいいか?」

「もちろん」

「だったら、娘と息子、そして君の仲間を呼んできてくれ。あ、それと」


「君達のリーダーが預かっているミックスの二人もね」


「!? 何故、それをご存知なんですか?」

予想外の人物を指す言葉の登場に、リッキーは戸惑いを隠せない。


「ルビーファミリーの情報網をナメてはいけない、とだけ言っておきましょうか」


「……分かりましたよ。呼んできます」

 

※シュウェットケムファー(Schwertkämpfer)=剣士