24

 

四人は、再び顔を見合わせた。
そして、ブラローのメンバーに聞こえないように、言葉を交わした。
それから、彼らの方を向いた。
 
「ゲール、だっけ」
「ん?」
名前を呼ばれた彼は、視線を四人に合わせる。
「俺達、決めたんだ」
そう言ったのはロタールだった。
 
「俺達、ミルトリーファミリーに入るよ」
 
「……いいよ。でも、何でこのタイミングで?」
 
「俺達は、今、越えてはいけない一線を越えた。つまり、裏社会に足を踏み入れたんです」
 
「……」
 
「もう、後戻りは出来ないんです」
 
「……了解。それなら、明日、僕達のボスに挨拶をしに行こう。ローリー、今何時だ」
ローリーは腕時計をチラッと見た。
「十一時半をちょっと過ぎたぐらいかな」
「そうか。今日はもう遅い。君達は先に帰って休め。片付けはこっちでやっておくから。ユーミン、彼らをよろしく」
「了解。帰るぞ」
「「……はい」」
ユーミンは四人を引き連れ、部屋から消えた。
「ローリーとサムも帰っていいよ」
「え、でも……」
「片付けは?」
二人は少し戸惑っている。
「今日はいいんだ。ボスの命令は絶対、よね?」
「……分かったよ。大人しく帰るよ」
「それじゃ、俺も」
二人も部屋を出る。
 
「……ゲール」
二人だけになった部屋で、リッキーはボスの名を呼ぶ。
「先、片付けて」
「はい」
彼はその指示に従い、ゴーストの遺体を処理した。
 
「あの四人、どう思う」
「え?」
ゲールは突然話しかけてきた。
「だからあの四人、どう思うかって」
「あの四人か……あいつら笑ってたし、怖がっている様子も無かったしな」
 
「……僕は、彼らは本当の殺し屋だと思う」
 
「本当の殺し屋?」
 
「そう。……僕達が初めて、人殺しの現場見た時のこと覚えてる?」
 
「忘れもしないさ。先輩が殺した相手から噴き出す鮮血。俺は震え、お前は泣き、サムが俺の後ろに隠れ、ローリーは気を失ってたな。でもユーミンは平気そうな顔をしていた。何でだ?」
 
「それは僕にも分からない。でも見てごらん、人をこの手で殺す以前に、その現場を見ただけで僕達の殆どが怖がっていて、現場を直視できなかった。だけど彼らは、最初は怖がっていたけど、いざとなるとあっさり刃を突き刺した。……この違いは何なんだろう」
 
「……」
 
「最初の頃の僕達とは全く違う。だから本当の殺し屋だと思う。……でも本当に、何でだろうな」
 
「……ゲール」
 
「昔、魔法使いが魔法を使って人を殺すことは禁忌の一つだった。でも今はそれが当たり前になっている」
 
 
彼の目には、涙が浮かんでいた。
 
 
「僕はさっきこそ、殺し屋らしく冷酷な命令を下した。でも本当は、今でも人を殺すのが嫌いなんだよ! 殺した後、いつも何だか空しくなるんだよ! 何のためにこんな仕事しているのか、分からないんだよ!」
 
彼はまくしたてる。
 
 
「……ホント、どこで歯車が狂ったんだろうね」
 
彼の瞳から、涙が零れ落ちた。
 
瞬間、その身体を温もりが包んだ。
 
「え……?」
 
温もりの元は、リッキーだった。
彼がゲールの身体を優しく抱いていたのだ。
 
「おい、放せ!」
ゲールは声を荒げる。
 
「……はいはい。ごめんな、母さんの癖がうつったみたいで」
リッキーは身体を放した。
 
「母さんの癖?」
ゲールが問いかける。
 
「うん。俺が小さい頃、泣いていた時に、母さんがこうやって抱いてくれていたんだ。そしたら泣き止んだから。ほら、お前ももう泣いていないだろ?」
「……子供扱いしないでくれ」
「13歳は十分子供だよ」
「それを言えば君だって……」
「……そこまでにしよう」
言い合いになりそうだった会話を、リッキーが遮断した。
「……人を殺すのが嫌いなのは、お前だけではない。俺もだし、ローリーやサムも同じ気持ちのはずだ。……ユーミンは例外かもしれないけど。一つ、聞いていい?」
「いいよ?」
「お前は今まで、その手で何人の人を殺した?」
「そんなのいちいち覚えていないよ。100人は超えていると思うけど」
「だよな。でも俺は覚えている」
「何人?」
 
「……5人だ」
 
「た、たった5人!?」
 
ゲールが驚くのも無理はない。
そのはず、彼らは本格的にこの仕事を始めてからもう6年だ。
この数は少なすぎる。
 
「俺は任務の時はいつも、自分以外の人を一人か二人、同行させていたんだ。何故なら、彼らにとどめを刺させるためだ」
「じゃあ君は、何をしていたの?」
「ひたすら相手を弱らせていた。同行者が捕まらなかった時は、やむなく自分で息の根を止めていた。その回数が5回だ。剣も、弱らせるためのものと、とどめを刺すためのものと、使い分けているんだ。さっき四人に渡したのはとどめを刺すための剣だ。弱らせる方は……こっちだ」
 
彼は一本の剣を魔法によって取り出した。
 
「これは……」
「フランベルク------フランベルジェとも言う。死よりも苦痛を与える剣だ。傷が治りにくいから、致命傷を負わせるには十分だ。これで動けなくして、同行者にとどめを刺させる。そうやって、今までやってきたんだ。でも、ゴーストの言葉が本当なら、近いうちにたくさんの敵を殺さなければならない。生きるため、と割り切ったら何とかなるけど、難しいねえ……」
 
「……」
 
「……今日はもう遅い。帰ろう」
リッキーが、ゲールの肩に手を置いた。
「でも僕、本部に報告に行かないと……」
「俺がやっておく。たまには休養も必要だぜ、」
 
「ゲール・フォンデュン・ミルトリー」
 
そう言って、リッキーはその場を去った。
 
 
「フルネームで呼ばれるの、久しぶりだ……」
一人きりになった部屋で、彼は呟く。
 
「……ま、いっか。たまにはゆっくり休むとするか」
 
彼も部屋から出て行った。
 
 
家は、何事も無かったかのように静まり返っていた。
 
一つだけ変わったことを挙げるとすれば、この家に住人がいなくなったことだろう。