25


先にゲール達の家に帰った五人のうち、キャシー、ノエル、ベルフの三人はすぐに眠りについた。

一方、ユーミンとロタールは、書斎にいた。

「聞きたいことがあるんだって?」
「うん。ちょっと、服、上だけ脱いでいい?」
「え!? 構わないが……」
ユーミンが戸惑いながら答えている間に、既に上着を脱ぎ終わっていた。
そしてあっという間に、肌着一枚になった。

「それで?」
「……これを見てもらいたいんだ」

そう言って、彼は彼女に右肩を見せた。

「これ、何か分かるか?」

「!?」

彼の右肩には、印のようなものがあった。

(まさか……)

「ちょっと待て。ものすごく心当たりがある」
彼女は一冊の本を本棚から取り出し、先ほど開いたページを再び開く。
そして、彼の印と、本に載っている図とを見比べた。

(間違いねえ……)

「……分かった?」
彼女の表情が変わったのを見て、彼は声を掛けた。
「分かった。それを言う前に、一つ、いいか?」
「いいけど」

「お前、今、魔力使えるか?」

「それがね、何故か使えないんだ」

「……やっぱり」

「何か、関係でも……」
彼は不安そうな表情になる。

「関係大ありだ。この印、」


「魔力を封じる呪いだ」

「え……」

彼は呆然とする。
その彼に、彼女は詳しい説明を加えた。

「……だから、この呪いはかけた本人しか解除できない。相手に心当たり、あるか?」
「いや、全く。でもこれで分かったよ」
「何が?」
「魔法が使えない理由だよ。少し、話していい?」
「いいよ。だったら、立ち話もあれだから、座ろう」
二人は書斎のソファに向かい合って腰掛けた。


俺、自分が記憶喪失だ、てこと、知っていたんだ。

ベルフから聞いた話なんだけど、ある日突然日本に飛ばされた俺達を、育ててくれた女性がいたらしい。
もちろん、そんな人のことなんて俺は全くもって知らないけど。
ところが、小学校の卒業式の日に、その人が亡くなったんだ。
俺はその話を聞いた瞬間、ショックで気を失ったらしい。

目が覚めた時、俺はベットに寝かされていた。
でも、何でベットに寝かされているのが分からなかった。
だから、そばにいたベルフに聞いた。
そしたら、さっきのことを説明してくれた。

普通の人なら、その出来事をすぐに思い出せるかもしれない。

だけど俺は------思い出せなかった。
理解できなかった。
彼女が誰か、分からなかった。
それどころか、

それまでの人生の記憶が、全く、無かった。

ベルフの話には、適当に返事をしておいた。
自分が誰か、てことは覚えていたから、生活には支障は出なかった。

ベルフには、迷惑をかけたく無かったんだ。
だから、あの時記憶が無くなったことを隠してきた。
まさかあのタイミングで明かすなんてね……。

問題はここからなんだ。
俺が目覚めた後、右肩に今の印があった。
それから魔法が全く使えなくなったんだ。

俺は原因を調べた。
でも、魔法界から長く離れていたから、分からなかった。

俺がそんな状態になってから一週間ぐらい経った頃、ベルフも魔法が使えなくなっていた。
理由は教えてくれなかった。
俺みたいな印も無かった。

「だから、理由が分かっただけで俺は一安心だ。ありがとう」

彼は少し笑った。

「感謝しなくていいさ。そうか……となると、今度はベルフが魔法を使えない理由が気になるな。……そうだ、あいつ、何かアクセサリーとか着けているか?」
「アクセサリーか……」
彼は少し考え込んだ。
「……着けてる。アクセサリー、て言っていいかどうか分からないけど」
「どんなものを?」
「えっと、あれだ、ミサンガって言うやつ。あいつ、足首に巻いて、靴下で隠しているみたいなんだ。一回だけチラッと見えたことがあるんだけど」
「なら、それかもしれないな。明日聞いてみるか」
「答えないと思うよ……」
「聞かないよりはましだろ。……あ~あ。眠い。僕はそろそろ寝るよ。お前も寝たら?」
彼女は立って大きく伸びをした。
「そうするよ。おやすみ」
彼は書斎を出て行った。
「おやすみ」

(面倒だから、ここで寝るか)
彼女は書斎の電気を消し、そのままソファに寝転がり、目を閉じる。

(それにしても、雨、止まねえな……)

(僕は、このままでいいのか?)

(……ま、いずれはバレることだ、今考えることじゃない)

彼女の意識は、そこで途切れた。


                            ◆


コンコン。
本部のボスの部屋の扉がノックされる。
「どうぞ」
「失礼します」
入ってきたのは、リッキーだった。
「おや、今日は君か。ゲール君が来ると聞いていたんだが」
「ちょっと色々ありましてね。……任務は成功です。ただ、」
「ただ?」

「……とんでもない情報が入ってきたんですよ」

「!? 何だ、それは」
ボス---マリノは顔をしかめる。

「赤い宝石の連中がですね……」
リッキーはゴーストからの情報を伝える。

「一斉襲撃、ねえ……それはとんでもない話だな。それまでに戦力強化をしておくべきかな。ならば彼らに頼むか……」
マリノは独り言のようにブツブツと言葉を紡ぐ。
「彼ら、というと?」
「属性魔法を研究している人達のことだ。君の近くでは、」
「ああ、聞いたことありますよ。ユーミンから」
マリノの言葉を、リッキーが遮った。
「……人の言葉は最後まで聞いてくださいな」
「それは失礼。話は戻りますけど、それには七つの属性があるんですよね?」
「そうだ。そして今、『時』属性の者を必死に探している」
「まだ、見つからないのですか?」
「そうなんだよねえ。これ、という見つけ方が無いんですよ」
マリノは溜息をつく。
「これは怪しい、という人は?」
「いるさ。でもさっきも言ったように、見つけ方が無いから、どうしようもない。……まあそれは置いといて、ルビーに勝つためには属性魔法が絶対必要になってくる。ゴーストもそれらしきもの、使っていなかったか?」
「確か……手から水が出てたような」
「それだ。なら彼は水属性だったようだな。……ルビーはここより属性魔法の研究が進んでいるから、このままではまずい。……そうだ、こうしよう。明日、各部隊のリーダーを集めて対策を練ることにする。時間はここの時間で午前10時。悪いけど、これは緊急事態だ。ゲール君に伝えておいてくれ」
「分かりました。……俺はそろそろ帰るとします。おやすみなさい、」


「師匠」


リッキーは部屋のドアを静かに閉めて出ていった。


「……やっぱりバレてしまいましたか。さすが私の、」


「愛弟子」