Trick or …?③

イタリア時間、10月30日午後3時。
ミルトリーファミリー本部の大広間では、明日に控えたハロウィンパーティーの準備が行われていた。

「そこの画用紙、取ってくれないかな」
「悪いけど、これを○○さんのところに持って行ってくれない?」
「違う違う、それはもっと左側に」
「こらそこ、サボるなあー!!」

そんな中、「ブラッディー・ローズ」、通称ブラローの5人は、壁の飾り付けをしていた。
あらかじめ作っておいたものを、次々に壁に貼っていく。
簡単な作業に見えるが、実はこれが意外と疲れるのだ。
貼るものがあまりにも多いからである。

「おーい、そっちは大丈夫か?」
ユーミンが、下のほうにいるゲールに声を掛ける。
彼女は今、梯子に登って、高いところで作業しているからだ。
「大丈夫。あと少しで終わるから」
ゲールが答える。
「分かった。……あれ、リッキーとローリーとサムは?」
3人はさっきまですぐ隣に居たはずだ。
「3人なら、もう終わってどっか行ったよ」
「サボりじゃないよな?」
「それはないと思うよ」
「だよな。……っと、これでよし」
ユーミンは慎重に梯子を降り、ゲールと合流した。
彼もちょうど作業を終えたようだ。
「さてと、他にやることないかな」
「僕は何も聞いてないけど……ん?」
「どうした?」
「あそこ、手伝った方が良くないか?」
「どれどれ」
ゲールがそう言って示した先には、巨大なジャック・オ・ランタンを運んでいる人が3人。
リッキー達だ。
いかにも重そうな顔をしている。
「行くか?」
「もちろん……って」
2人が彼らの方に向かおうと思ったとき、ジャック・オ・ランタンは床に降ろされた。
一息ついて、彼らはこちらに向かってきた。
「あれ、君達も終わったのか?」
リッキーが話しかけてきた。
「たった今ね。ていうか、あれを3人で運ぶのは大変じゃないか?」
「そら大変だよ。暇だったからうろうろしてたら急に『運んでくれ』って調理班の人に言われてさ」
「なるほどね。それにしても、この部屋もだいぶハロウィンらしくなってきたね」
「そうだな」

そうして話していると、後ろからパタパタと足音が聞こえてきた。
それに気づいた彼らは振り返る。
その足音が誰のものかを確認する前に、相手はいきなりゲールに抱きついてきた。
「ゲールさーん!」
「誰だ……って、うわ!」
彼は突然のことに驚いて、すこしバランスを崩しそうになった。
「脅かし作戦、大成功です! ね、梨花さん」
「う、うん……」
抱きついてきたのは、青い髪と目の少女だった。
彼女の横には、黒髪茶眼の少女もいる。
「びっくりした……マリン、そろそろ会う度にいたずらをするのはやめてくれないか?」
ゲールが困ったように言う。
「えー、だって、ゲールさんっていたずらしやすいし」
「……」
彼は反論できなかった。

「あの、いたずらした子って誰?」
青い髪と目の少女を知らないローリーが、ユーミンに聞いた。
サムも知りたそうにうなずく。
「あの子はマリン。壷の国に行った時に会った子なんだ。今は医療班で治癒士をしてる」
「そうなんだ。……2人は仲が良いのか?」
「分からない。でもマリンはゲールによくいたずらしているのは確かだ」
「……大変だね、ゲールも」
「そうだな」

「そういえば梨花は、何でここにいるんだ?」
マリンが誰かに呼ばれてその場を去った後、ゲールは黒髪茶眼の少女に話しかけた。
「実は、リッキーさんに誘われたんです。折角だから、一回参加しないか、って。もちろん、ボスの許可もちゃんととってますよ」
「あ、そ、そうなんだ。まあ、楽しんでいってね」
何故か返事がぎこちなくなる。
「はい!」
彼女は、笑顔で返事をした。
「あ、梨花さん! ここに居ましたか」
「今行きます!」
誰かに呼ばれて、彼女もどこかに行ってしまった。

「……」
彼は考えていた。
(何であの子に会う度にドキドキするんだよ! しかもこの気持ちは何なんだよ!)

「どうしたんだい? そこの少年」
リッキーが彼に話しかけた。
「そこの少年じゃねえ、ゲールだ。ていうかお前は何で梨花を呼んだんだよ!」
「そんなの簡単だよ」
そしてリッキーは、にやり、と笑った。

「君にチャンスをあげようと思ってね」

「……は?」

ゲールは全くその言葉が理解できなかったようだ。
リッキーはその反応にため息をつく。

「……しょうがないなあ。君は鈍感だから、はっきり言ってあげるよ」
リッキーは、ゲールの耳元に手を当てて囁いた。

「君、梨花のことが『好き』なんじゃない?」

「……!!」

(は? 今こいつ何て言った? 僕が梨花のことを『好き』? そんな、そんな、)

「そんな訳あるかああああ!!」

彼は思いっきり叫んだ。
大広間にいた人々が、驚いて彼の方を向く。

「やっぱり、図星のようだね。顔真っ赤だし」

「黙れ腹黒眼鏡野郎! 僕は少し頭を冷やしてくるから探さないでくれ!」

そう言って、彼は大広間を急ぎ足で出て行ってしまった。

「……おい」
その様子を見ていたユーミンが、リッキーの肩に手をかけて言った。
「どうしたんた?」
「……人の弟に何をした」
「別に。俺はボスに『本当の気持ち』を気づかせてあげただけだ」
「……そうかよ。……ローリー、サム、ちょっと来い」
「え、何で?」
「何で俺ら?」
いきなり呼ばれた2人は戸惑う。
「いいから来い。リッキーは来るな」
「……分かりましたよ」

(こいつにも、お仕置きが必要なようだな)

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